ハンナ・アーレント C
(HANNAH ARENDT)2012
監督 | マルガレーテ・フォン・トロッタ | |
キャスト | バルバラ・スコヴァ | ハンナ・アーレント |
アクセル・ミルベルク | ハインリヒ(夫) | |
ジャネット・マクティア |
メアリー・マッカーシー(作家) |
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ユリア・イェンチ | ロッテ(ハンナの秘書) | |
ウルリッヒ・ノエテン | ハンス・ヨナス | |
ミヒャェル・デーゲン | クルト・ブルーメンフェルト | |
ニコラス・ウッドソン | ショーン(編集長) | |
ヴィクトリア・トラウトマンスドルフ | シャルロッテ | |
ハーヴェイ・フリードマン | トーマス | |
クラウス・ポール | マルティン・ハイデガー | |
フリーデリーケ・ベヒト | ハンナ(学生時代) |
ドイツ出身のユダヤ人で、ナチスや全体主義の考察で知られる哲学者、政治思想家のハンナ・アーレントを描いた作品。
ドイツ、ルクセンブルク、フランスの合作映画。言語は独語と英語。
なかなか波乱万丈でドラマティックな人生を送った彼女ですが、本作ではその生涯全体ではなく、1961年に開かれたアイヒマン裁判の傍聴記録「エルサレムのアイヒマン -悪の陳腐さについての報告」を執筆して、論争を巻き起こしたところに焦点を絞った作りになってます。
固い話で万人が楽しめるエンタメ作ではありません。アーレント以外にも著名な思想家が多数登場し、歴史的な背景など予備知識がないとちょっと難しい作品。
(見どころ)
●最後のアーレントの演説。
観る人の心に迫って来る、気迫あふれる圧巻のシーン。
アーレントの冷静な思考に納得させられます。
でも演説の後、親友ハンスからは「ユダヤのことをわかっていない。だから裁判も哲学論文にしてしまうんだ」と非難され縁を切られてしまいます。
自身もユダヤ人で被害者でありながら、冷静に裁判を見つめるアーレントの強さを感じ、なんでみんなわかってやれないんだ!と思うのですが、ハンスのように当時の多くのユダヤ人にはどうしても割り切れない思いがあるのも確かで、この2人の苦しく悲しい確執は、日本人では分かり得ないものだなと思いました。
(アイヒマン裁判)
ナチス政権下で、ユダヤ人の強制収容所への移送に関して指揮をとった人物、アドルフ・アイヒマンを裁いた裁判。戦後、アルゼンチンに逃亡していたが、1960年にイスラエルの諜報機関モサドに捕まり、翌年にエルサレムで裁判が開かれた。死刑判決を受け、1962年に絞首刑に処された。
作中の裁判のシーンでは実際の映像が使われています。
(アーレントの「エルサレムのアイヒマン 」を下敷きにして1999年に実際の裁判映像を使用したドキュメンタリー映画「スペシャリスト 自覚なき殺戮者」が作られてるので、興味のある方はぜひ。)
(エルサレムのアイヒマン -悪の陳腐さについての報告)
Eichmann in Jerusalem: A Report on the Banality of Evil
アーレントが雑誌に連載したアイヒマン裁判の記録。
アイヒマンを非道な極悪人ではなく、ただ命令に従っていただけのどこにでもいる平凡な役人と評した。命令に対し、その善悪について考えることを放棄したことが、結果悪魔的な残虐行為に繋がったとする。
こういった思考の停止を「Banality of Evil」(悪の陳腐さ)と呼んだ。
映画では「悪の凡庸さ」と訳してました。確かにその方がしっくりくる気がする。
またユダヤ人指導者の中にも、ホロコーストに対して一定の責任があったのではと指摘するなどして、多くのユダヤ人やイスラエルのシオニストから「アイヒマン、ナチズムの擁護だ」と激しく非難され、論争を巻き起こす。
(ハンナ・アーレント)
1906年ドイツ生まれ。大学時代、哲学者のマルティン・ハイデガーに師事する。映画でも少し描かれてましたが、当時既婚者だったハイデガーと男女の関係に。
同じくハイデガーに師事していた哲学者 ハンス・ヨナスと友人になる。またこの頃クルト・ブルーメンフェルトと出会いシオニズム思想に触れる。
ナチズムが台頭する中、フランスに亡命するが、そこで強制収容所に連行される。収容所から脱出しアメリカへ亡命。アメリカの各大学で教授を歴任。
アメリカでは作家のメアリー・マッカーシーと親交を深めた。
1951年「全体主義の起源」を発表し注目される。
1963年雑誌に「イェルサレムのアイヒマン-悪の陳腐さについての報告」を連載。
1975年心臓発作にて死去。(69歳)
★★★PICK UP LINES★★★
悪の凡庸さ
クルト
「アイヒマンが反ユダヤじゃない?」
ハンナ
「聞いたでしょ。彼は法に従っただけ。」
男A
「党員で、しかもSSだぞ。筋金入りの反ユダヤだ。」
ハンナ
「でも自分では手を下していない。」
クルト
「奴の言い分だ。」
ハンナ
「興味深くない?彼は殺人機関の命令を遂行したわ。しかも自分の任務について熱心に語っていた。でもユダヤ人に憎悪はないと主張してるの。」
男B
「ウソだ!」
ハンナ
「ウソじゃない。」
クルト
「それが奴の手だ。」
男A
「奴が移送先を知らないとでも?」
ハンナ
「移送先なんて関心がないのよ。人を死へ送りこんだけど、責任はないと考えている。列車が発車したら任務終了。」
クルト
「奴によって移送された人間に何が起きても無関係だと?」
ハンナ
「そう!彼は役人なのよ。」
クルト
「今回ばかりは譲れん。」
ハンナ
「クルト、想像を絶する残虐行為と彼の平凡さは同列に語れないの。」