ニトラム NITRAM S
(NITRAM)2021
監督 | |
ジャスティン・カーゼル | |
キャスト | |
ケレイブ・ランドリー・ジョーンズ | ニトラム |
ジュディ・デイヴィス | 母 |
アンソニー・ラパーリア | 父 |
エッシー・デイヴィス | ヘレン |
ショーン・キーナン | ジェイミー(サーファー) |
軽度の知的障害を持つ息子。
その世話をする母と父。
人と違うことは分かってもどうにもならない苦しさ。
疎外され孤独を深めていく息子を案じながら両親も疲れていく。その先に起こる事件。
1996年オーストラリア、タスマニア島の観光地ポート・アーサーで35人の死者を出した豪史上最悪の銃乱射事件ポート・アーサー事件の犯人マーティン・ブライアントを描いたオーストラリアのドラマ映画。
「ニトラム」はマーティン(MARTIN)を逆から呼んだ侮蔑的なニックネーム
(実話ベース)
ヘレンとの生活等、詳細をかなり省いているところもありますが、おおむね事実に即して描かれています。
●マーティン・ブライアント
1976年生まれ。事件当時は28歳。
マーティンは11歳程度の知能指数で、行動性、衝動性、多動性、注意欠陥などの障害があったと考えられます。
作中でも描かれていたとおり、運転中の車のハンドルにちょっかいを出すクセがあり、それまでに3回も事故を起こしているそう。
マーティンは最終的に大量殺人犯として記録されるわけですが、その前段階ですでにアンビリバボーな人生を歩んでます。
知的障害を持つ青年が小遣い稼ぎのための芝刈りで富豪の女性と出会って、気に入られて一緒に住むまでになり、3年で30台以上の車を買うような生活を送り、疑惑の交通事故で富豪の女性はなくなり、助手席にいたマーティンがその財産を相続。その後、実父が自殺しその年金も相続。海外旅行を繰り返し、孤独を深めた先に起こしたのが・・・
終身刑で現在も服役中。
●ヘレン・ハーヴェイ
タッツ・グループという宝くじやギャンブルを運営する会社の資産相続人。
1987年、ヘレンが54歳の時、19歳のマーティンと出会う。
元々は母親と2人暮らしで、母親の死後にマーティンと一緒に暮らすようになったよう。
ペットの多頭飼い、またセルフネグレクト的な感じで自宅はゴミ屋敷のようになっていたようで、自宅で動物を飼う事を禁止されたりしたそう。
ヘレンにとってマーティンはファニーでピュアな感じがしたのかな。
実際のマーティンのビジュは作中よりもかなり爽やかなイケメンで、その辺にも惹かれたのかもしれません。
(誰が、何を、どうすれば・・・)
どうすれば事件を防げたんだろうか。考えさせられる映画。
「私の苦悩を笑っていた。最高に面白そうに。」という母親の台詞が印象的。
この作品を観る限りでは、他者へのシンパシーが相当に欠けているように思える。サイコパス的気質が彼の障害に由来する者なのか判断しようがないですが、障がい者=犯罪者予備軍のように思われてしまうのは怖いな。
作中のとおり、ポート・アーサーで乱射する前に、父親が購入を希望していたコテージを買った夫婦を殺害してます。
恨んでいた相手を標的にして殺害を実行しているので、責任能力はしっかりあったと思えます。
(銃規制)
マーティンは非常に簡単に銃を買えちゃってました。
事件後、オーストラリアは銃規制に乗り出しましたが、作中ラストでは規制は厳密に守られる事なく、当時よりも銃の数は増えていると語られてました
(孤立・孤独)
ニトラムも、母親も、父親も、富豪のヘレンもみんな孤独でメンタルに問題抱えている感じなので、問題を抱えた者同士の集まりの中ではどうにもならなかったように思います。
障害があろうが、なかろうがとにかく孤独を深めさせたら人間ロクな思考にならないことは古今東西の無差別殺人犯からもあきらか。
行政など第三者にケアを頼むのか、そこにまかせるしかない社会の雰囲気も良くないんだろうな。
(見どころ)
怪演①
主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズがカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞しました。
人と比べていろんな事がうまくこなせない、衝動をうまくコントロールできない、どうにかしたい、変わりたい、でもどうにもならない。
時折見せる無邪気さに可愛げもあるが、強烈なコンプレックスや悲しさや憤りを抱える苦悩や、独善的な身勝手さに恐怖も感じさせる危険なキャラクターを見事に演じてました。
オーストラリア映画なので監督、キャストともにみなオーストラリア人でしたが、ケレイブだけアメリカ人。
怪演②
母親役のジュディ・デイヴィス。
母親なのでもちろん息子を愛してます。心配してます。
でもそれだけでやっていけるほどマーティンとの暮らしは生易しいもんじゃない。
複雑な心情が、表情に刻まれている深いシワの間に漂ってました。
父親やヘレンの演者も良かったです。
ヘレン役のエッシー・デイヴィスはジャスティン・カーゼル監督の奥さん。
★★★PICK UP LINES★★★
マーティンの苦悩
Sometimes I watch myself. But I don't know who- who it is that I'm looking at. Like... I can't get to him.
If I could- I could just change him so that he was like everyone else, but I don't know how.
So instead, I'm- I'm here. Stuck here... like this.
時々、僕は自分を見てもそれが誰だか分からなくなる。
誰を見ているのか。何て言うか。そいつに届かない。
みんなと同じになるよう、そいつを変えたいけど方法がわからない。
だから結局ぼくはここにこうしているしかない