聖地には蜘蛛が巣を張る B
(عنکبوت مقدس)(HOLY SPIDER)2022
監督 | |
アリ・アッバス | |
キャスト | |
ザーラ・アミール・エブラヒミ | アレズー・ラヒミ(記者) |
メフディ・バジェスタニ | サイード |
アラシュ・アシュティアニ | シャリフィ(地元記者) |
フォルザン・ジャムシドネジャド | ファテメ(サイードの妻) |
シナ・パルバーネ | ロスタミ(現地警察署長) |
フィールズ・アゲリ | ハジ(サイード友人) |
メスバフ・タレブ | アリ(サイードの息子) |
ソラヤ・ヘッリ | ザリ(ヤク売り婆さん) |
アリアナ・ナジリ | ソグラ(娼婦 ザリの娘) |
アリス・ラヒミ | ソマィエ(娼婦 最初に殺される) |
イラン第2の都市マシュハド。
イスラム教シーア派の聖地でもある宗教都市で娼婦を狙った連続殺人事件が起こる。
女性ジャーナリストのラヒミが連続殺人犯スパイダー・キラーの正体に迫る!
2000~2001年にマシュハドで16人の娼婦を殺害したサイード・ハナイによる実際の連続殺人事件をベースにしたスリラー・サスペンス&ドラマ。
(イランのお話だけど)
イランが舞台の作品で、監督も主演もイラン出身者ですが、イラン映画ではなくデンマーク映画。
イランで撮影したかったようですが、内容が内容なので当然の如く許可は下りず、ヨルダンの首都アンマンを中心に撮影したそう。
●アリ・アッバス監督
イラン出身。学生時代にスウェーデンに移住。その後デンマークに移り活動している監督さん。
●主演ザーラ・アミール・エブラヒミ
イランで活躍していた人気女優。
ところが2006年にセックス・テープが流出するというスキャンダルがあり(本人は、映っているのは自分ではないと否定)、イランでの俳優活動ができなくなりフランスに拠点を移す。
本作には当初俳優ではなくキャスティング・ディレクターとして参加していましたが主演に抜擢。演じるラヒミは架空の人物ですが、ザーラ自身のスキャンダル経験も盛り込んだキャラクターになってます。
見事カンヌ国際映画祭女優賞を受賞しました。
●ザイール役、メフディ・バジェスタニ
イラン人俳優。イランで活動している俳優さんなので本作出演には相応のリスクもあったよう。
ピーター・ストーメアとライアン・ゴズリングを足したようなキリッとした眼差し。
シリアル・キラーという異常者の役ですが、理解不能なサイコパスではなく、普通さのその延長に潜む狂気を好演してました。
(宗教都市での連続殺人)
●聖と俗
事件が起こったのはイランの中でも特に保守的な宗教都市。
表面上は保守的な教義に忠実であることを取り繕っているので、その抑圧のはけ口となるアンダーグラウンドはよりにエグいことになってそうな感じは伝わってきます。
あくまで映画なので実際の犯人や街をどれくらいリアルに描かいているのかはわかりませんが、監督も俳優たちもイラン人。
特に監督と主演女優は故郷イランとは距離を取って活動しているので、忖度抜きで描こうとしている感じはします。
●女性差別
犯人は敬虔なムスリムで「イスラムの教えに従って務めを果たした」と主張します。
でもこの殺人事件にイスラム教はあんまり関係ない。
根底にあるのは女性蔑視(ミソジニー)。
本作ではそれが犯人だけでなく、社会にも根付いてしまっている怖さを描いてます。実際の事件でも一部の人達や保守系メディアが犯人をヒーロー扱いしたそう。
「他者への共感」による寛容や平和こそが宗教。
犯人がしたことや、その支持者たちはその対極に位置していると思います。
宗教関係なく、どの時代でも、どの国でも起こり得る類の犯罪だと思いますが、舞台が舞台なのでイランの風刺、批判作品とみなされるのはやむなしか。
●帰還兵のメンタル問題
犯人サイードは動機として宗教的お題目を挙げてますが、戦場から帰ってきた後の平凡な日々の中では満たされない心のありようが問題。
1年で 16人もの人を殺害しているので快楽に目覚めた部分もあったんでしょうが、娼婦殺しがライフワークになり、宗教的な意味合いと結び付け、自分の中で勝手に信仰を免罪符にしてしまった感じでしょうか。
(見どころ)
●犯人サイード VS 記者ラヒミ
囮となって犯人の部屋を訪れた時のドキドキ緊迫感はやばい。
●犯人逮捕後の人々
どう考えても凶悪な殺人犯ですが、それを英雄視する人々がいる。
恐いですよねー。
だから教育って大事。
★★★PICK UP LINES★★★
シーン① 戦争帰り
サイード
人生でなにか成し遂げたい
神は俺をただの建築屋以上に創ったはずだ。
戦争がもっと続いてりゃ俺だって・・・
シーン② 妻
ファテメ
夫は使命を果たしたの。
聖地であんな女たちは放っておけない。